も・く・じ・ろ・く
「 粉 と 私 」 <出版記録・概要>

「 粉 と 私 」
荒 川  正 文  著
発行 アイ・ティー・アイ・(総合工学出版会)
「まえがき」 より

「お父さんは、どうして“けんきゅう”をしているの?」
 
 小学校四年の息子に突然質問されて、私はすくなからずあわてた。別になにも考えずに仕事をしていたわけではないが、相手はまっ黒けになって蝉とりに夢中になっていたチビスケである。どう答えればわかってくれるかと戸惑った。われながら気障なセリフだとは思ったが、「お父さんは自分の言葉で本を書くために研究しているんだよ」。いヽ終ってすぐに注釈をつけた。「自分の言葉というのは、よその人の書いたことをまる写しせずに、自分で考えたこと。本を書くというのはちゃんとほかの人にわかってもらえるような仕事をするということだよ」。

 これで息子がわかってくれたかどうか。うなづいてそれ以後、こんな質問はしなかった。しかし私には忘れられなかった。そのあと折にふれてこの質問と答を思い出した。

 それから三十年余りの歳月がすぎた。傍で微笑みながらこの問答を聞いていた妻も六年前の冬、急逝した。一人になって何をするでもなく日々を過ごしているうちに、粉体工学会のある会合で、まだお元気だった井伊谷先生から「荒川さん、あんた元気なうちに沈降法の分散剤のこと、会誌にでも書いといてよ」といわれた。そういわれてみると、もう五十年ほども前に、なにもわからず闇くもに実験し、これがよかろうときめた分散剤が、あまりちゃんとした報文にもならずに何となく世に広まったまゝになっていることを思い出した
 
粉体工学会誌編集委員長の増田教授に、「井伊谷先生にいわれたけど、書いたら載せてくれる?」とたずねたら、丁度、「匠シリーズ」という連載の企画があるからということで昔話を書かせてもらった。書いているうちにいろいろの思い出が雲のように湧いた。共同研究者だった妻との思い出もまた新たになった。「そうだ、あのときの息子との約束も果たしておこう。もう憶えてもいないだろうが」こうして、粉体工学会誌の匠シリーズに書いたものの一部と、そのほかの粉体に関係した仕事のところどころを集めたのが本書である。まとめてみると、むかし息子に大見得きったのが恥ずかしくなる内容であるしかし、これが私の五十年の粉とのつきあいの姿であり、また1946年、敗戦の翌年から立ち上がってきた歳月を、ずっと研究生活で過ごしてきた、あまりできのよくない、しかし、幸せな男の記録である.。なお、もはやどうでもよいことだが、この本を書こうと思い立ったときたずねてみたが、息子はあの質問のことを全く憶えていなかった。

 こんないきさつの本だからけっして技術書ではないしかし、ことがことだけに言葉に専門語が多く、図表も堅苦しいが、できるだけ数式や理くつ抜きで書きつゞつたつれづれ草である。バラバラとみていただければ幸いである。
 
  平成12年3月

「粉と私」 も・く・じ・ろ・く

【内容項目・目次

1.
序章−ことのおこり

2.
沈降法と私

・はじめに
Werner法−けん濁液とは何だろう
Wiegner
・沈降天秤の試作
・沈降天秤法の問題点
・差圧法の試み
・新しい遠心沈降装置の試作
・分散剤の検討

3.
顕微鏡と私

・はじめに
・電子顕微鏡との出会い
・検鏡試料と粒度測定
・粒子形状の観察・ボンレプリカとステレオ観察
・媒質中の粒子の分散状
・粒子の凝集構造の観察
・粉体の泥沼へ

4.
比表面積と私

・はじめに
・透過法
   空気透過法との出会い
   分子流域透過法
・吸着法
・異なった測定法による粒度の比較

5.
粒子の集合構造と私

・はじめに
・粉体の粒度と嵩体積
・粒子間凝集力の測定
・発泡ポリスチレン粒子による充填モデル
・嵩べり度−粉のフワフワ度
・安息角

6.
粒子の分散凝集と私

・はじめに
・コロイド化学での粒子分散の基礎知識
・炭酸カルシウムの粒度測定のための分散剤
・液中の粒子の分散・凝集と粒子間相互作用力
・濃厚スラリーの分散・凝集
・濃厚スラリー粒子の凝集シミュレーション
・あとがき

7.
粉体の流動と私

・はじめに
・まず混練から
・粉体はなぜ流動できるのか
・杯土の押出し成形
・粉体の流動−粒子集合構造の調節と制御
・粉体の性質と流動性
・容器からの流出
・あとがき

8.
粒子の付着・凝集と私

・はじめに
・集合している粒子間の凝集力の測定−水膜付着力の検討
・引張り破断形粒子間付着力測定機の開発
・粒子間相互作用力の直接測定

9.
水面粒子膜法と私

・はじめに
・粒子水面膜法の発端
・水面単粒子膜形成装置の試作
・水面単粒子膜の粒子充填率の測定
・水面単粒子膜面積から粒子厚さの測定
・高分子補強用充填剤としてのマイカのアスペクト比
・おわりに

10.
粉体の成形と私

・はじめに
・成形とは何か
・加圧成形
・可塑成形
・鋳込成形

11.
終章ことのおわり

図書申し込みについて
書  名:「粉 と 私」
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